1. グラーツの地域性:文化と自然が息づくシュタイヤマルク州の州都
グラーツは、オーストリア南東部に位置するシュタイヤマルク州の州都であり、オーストリア第2の都市です。その歴史は古く、中世から重要な交易都市として栄え、特にハプスブルク家の影響を強く受けながら独自の文化を育んできました。都市の名前はスロベニア語の「gradec」(小さな城)に由来するとされ、その名の通り、街の中心には歴史的な城山(シュロスベルク)がそびえ立っています。
グラーツの地域性は、アルプスの山々とパンノニア平原の間に位置するという地理的特性に大きく影響されています。これにより、北方のゲルマン文化と南方のスラブ文化、そして東方のハンガリー文化が交錯する、独特の文化的混合が見られます。この多様性が、グラーツの建築様式、食文化、そして人々の気質にも反映されています。
気候は、オーストリアの他の地域と比較して、南部特有の温暖な気候が特徴です。夏は比較的暑く、冬は穏やかで雪が少ない傾向にあります。この温暖な気候は、ワイン生産に適しており、周辺地域ではワイン畑が広がっています。
グラーツは、シュタイヤマルク州の政治、経済、文化、教育の中心地でもあります。特に、カール・フランツェンス大学をはじめとする複数の大学が集まる学術都市としても知られ、若い世代の活気と、古くからの伝統が共存する魅力的な街を形成しています。2003年には欧州文化首都に選ばれ、その文化的価値が国際的に認められました。また、2004年には「グラーツ歴史地区とエッゲンベルク城」がユネスコ世界遺産に登録され、その歴史的建造物群が保護されています。
2. グラーツの観光:世界遺産の街と現代建築の融合
グラーツは、そのコンパクトな街の中に、中世から現代に至る様々な建築様式が混在し、訪れる人々を飽きさせません。歴史的な魅力と現代的な活力が融合した観光スポットが点在しています。
シュロスベルク(城山)
グラーツのシンボルであり、街の中心にそびえる丘です。かつて要塞が築かれていた場所で、現在は美しい公園となっています。頂上からはグラーツの旧市街を一望できるパノラマビューが楽しめます。シュロスベルクへは、ケーブルカー(シュロスベルクバーン)やエレベーター(シュロスベルクリフト)を利用するか、階段を登ってアクセスできます。特に、ランドマークである時計塔(ウーアトゥルム)と鐘楼(グロックハウス)は必見です。
旧市街(世界遺産)
ユネスコ世界遺産に登録されているグラーツの旧市街は、ルネサンス様式からバロック様式、アールヌーヴォー、さらには現代建築まで、多様な様式が混在する美しい街並みが魅力です。狭い路地、歴史的な広場、色鮮やかな建物が織りなす景観は、散策するだけでも楽しめます。
- ハウプトプラッツ(中央広場): 旧市街の中心となる広場で、歴史的な建物に囲まれています。市庁舎や、オーストリアを代表するルネサンス様式の建造物であるハーブラーハウスなどがあります。
- ランデスハウス(州庁舎): ルネサンス様式の壮麗な建物で、特にアーチが美しい中庭は必見です。
- グラーツ大聖堂: ゴシック様式の大聖堂で、内部にはフレスコ画や美しい祭壇があります。隣接する霊廟にはハプスブルク家の皇帝フェルディナント2世が眠っています。
- マリアヒルファー通り: 旧市街から少し離れた場所にあるショッピングストリートで、活気があります。
ムアインゼル(ムア島)
グラーツのムア川に浮かぶ、近未来的な形状の人工島です。ニューヨークのアーティスト、ヴィト・アコンチによってデザインされ、2003年の欧州文化首都のプロジェクトとして建設されました。内部はカフェになっており、ユニークな建築物として観光客に人気です。夜にはライトアップされ、幻想的な雰囲気を醸し出します。
クンストハウス・グラーツ(グラーツ現代美術館)
地元では「フレンドリー・エイリアン」(友好的な宇宙人)の愛称で親しまれる、グラーツのランドマーク的な現代建築です。有機的なフォルムと、青いアクリルパネルで覆われた外観は強烈なインパクトを放っています。内部では現代アートの展覧会が開催されています。伝統的な旧市街のすぐ近くに、このような斬新な建築物が存在するという対比が、グラーツの魅力の一つです。
エッゲンベルク城(世界遺産)
旧市街から少し離れた場所にある、バロック様式の壮麗な城です。ユネスコ世界遺産にも登録されています。宇宙の秩序と時間の流れをテーマにした設計が特徴で、内部の豪華な装飾や、広大な庭園が見どころです。特に、ピーコックホール(孔雀の間)は必見です。
博物館・美術館
- アーモリー(シュタイヤマルク州立兵器博物館): 世界最大級の歴史的な兵器コレクションを誇る博物館です。甲冑や剣、銃など、数万点もの武器や防具が展示されており、中世から近世のヨーロッパの軍事史に触れることができます。
- ヨアネウム博物館: オーストリア最大の州立博物館で、自然史、文化史、美術など多岐にわたる分野のコレクションを所蔵しています。
3. グラーツの食べ物:シュタイヤマルク州の豊かな食文化
グラーツが位置するシュタイヤマルク州は、「オーストリアの緑の心臓」とも呼ばれ、豊かな自然と肥沃な大地に恵まれています。そのため、地元の食材を活かした独自の食文化が発展しており、グラーツはその中心地です。
シュタイヤマルクかぼちゃの種油(Kürbiskernöl)
グラーツ、ひいてはシュタイヤマルク州を代表する特産品です。濃い緑色をしており、ナッツのような濃厚な香りと風味、そして独特の苦味が特徴です。サラダのドレッシングとしてだけでなく、スープやデザート、さらにはバニラアイスクリームにかけても絶妙な味わいになります。ビタミンEや不飽和脂肪酸が豊富で、健康食品としても注目されています。グラーツ市内のマーケットやスーパーマーケットで手軽に購入できます。
シュタイヤマルク風フライドチキン(Backhendl)
骨付きの鶏肉にハーブとスパイスで下味をつけ、パン粉をまぶして揚げた料理です。外はサクサク、中はジューシーで、レモンを絞って食べることが多いです。伝統的には、温かいかぼちゃの種油サラダと共に提供されます。
ワイン
グラーツ周辺のシュタイヤマルク州南部は、オーストリア有数のワイン生産地です。特に白ワインが有名で、ソーヴィニヨン・ブラン、ヴェルシュリースリング、シャルドネなどが生産されています。ホイリゲ(Heurige)と呼ばれるワイン居酒屋では、地元のワインと、自家製の料理(ハム、チーズ、パンなど)を楽しむことができます。グラーツ市内のレストランでも、地元のワインを豊富に取り扱っています。
伝統的な肉料理
オーストリア料理の定番であるヴィーナーシュニッツェル(薄く叩いた仔牛肉を揚げたカツレツ)や、ターフェルシュピッツ(牛肉を煮込んだ料理)などもグラーツのレストランで楽しむことができます。また、ソーセージやハム、ベーコンといった肉加工品も豊富です。
スイーツ
ウィーンほどではありませんが、グラーツにも美味しいスイーツがあります。
- アプフェルシュトゥルーデル: リンゴの薄切りを薄い生地で巻いて焼いたパイ。
- クグロフ: リング状の型で焼いたブリオッシュ風の焼き菓子。
- トルテやケーキ: カフェでは様々な種類のトルテやケーキが提供されています。
ファーマーズマーケット(Bauernmarkt)
毎週土曜日などには、市内の広場でファーマーズマーケットが開催されます。地元の農家が採れたての野菜、果物、チーズ、パン、肉加工品などを販売しており、グラーツの豊かな食文化を体験するのに最適です。新鮮な旬の食材や、地元ならではの特産品を見つけることができます。
4. グラーツのライフスタイルと学術都市としての側面
グラーツは、その歴史的な魅力と自然の豊かさに加えて、学術都市としての活気も持ち合わせています。
大学都市
カール・フランツェンス大学(グラーツ大学)、グラーツ工科大学、グラーツ医科大学、グラーツ芸術大学など、複数の大学がグラーツに集まっています。これにより、街には多くの学生が暮らしており、若々しいエネルギーと国際的な雰囲気が漂っています。カフェやバー、パブも多く、学生文化が街の活気を支えています。
自転車都市
グラーツは、自転車に優しい都市としても知られています。市内に整備された自転車道は、市民の生活に深く根付いており、観光客もレンタル自転車を利用して街を巡ることができます。ムア川沿いのサイクリングロードも人気です。
文化イベント
欧州文化首都に選ばれた経験を持つグラーツは、年間を通じて様々な文化イベントが開催されます。音楽フェスティバル、演劇公演、アートイベントなど、伝統的なものから現代的なものまで、多様な文化体験が可能です。
質の高い生活
ウィーンと同様に、グラーツも生活の質の高い都市として評価されています。比較的コンパクトな街で、公共交通機関が充実しており、緑豊かな公園や自然も身近にあります。治安も良く、落ち着いた雰囲気の中で生活できる点が魅力です。
5. まとめ:多様な魅力が詰まったグラーツ
オーストリア第2の都市グラーツは、その地域的な多様性、豊かな歴史と現代が融合した観光地、そして地元の食材を活かした独自の食文化が魅力の都市です。ハプスブルク家の影響を強く受けた壮麗な旧市街はユネスコ世界遺産に登録され、歴史愛好家を魅了する一方で、ムアインゼルやクンストハウスといった現代建築は、街の革新的な側面を示しています。
シュタイヤマルクかぼちゃの種油やシュタイヤマルク風フライドチキンなど、地元の特産品を活かした食文化も豊かで、ワイン生産地としても知られています。学術都市としての活気も兼ね備え、伝統と若々しさが共存するユニークな雰囲気を醸し出しています。
グラーツは、ウィーンのような華やかさとは異なる、素朴でありながらも奥深く、そして個性的な魅力を放つ都市です。歴史、文化、芸術、そして食の楽しみが凝縮されており、オーストリアを訪れる際には、ぜひ立ち寄る価値のある場所と言えるでしょう。
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