イタリア・ラクイラ:アペニン山脈の隠れた宝石
イタリア中部、アペニン山脈の懐に抱かれるように佇むラクイラ。その名は、イタリア語で「鷲」を意味し、その名の通り、山々を見下ろす高台に築かれた城塞都市の風格を漂わせています。地震によって甚大な被害を受けた過去を持ちながらも、力強く復興を遂げ、今ではその歴史的建造物と雄大な自然が訪れる人々を魅了する、知る人ぞ知る隠れた宝石のような都市です。
ラクイラの魅力:歴史と自然の調和
ラクイラの中心部は、中世の面影を色濃く残す石畳の道と、荘厳な教会、そして緑豊かな広場が織りなす美しい景観が広がっています。かつてはメディチ家の支配下にあった時期もあり、その影響を受けたルネサンス様式の建造物も随所に見られます。また、周辺にはアペニン山脈国立公園が広がり、ハイキングやスキーといったアウトドアアクティビティの拠点としても最適です。
歴史的建造物:静寂の中に息づく過去
ラクイラを訪れるなら、まず見逃せないのがその歴史的建造物群です。特に、街のシンボルとも言えるサン・ベルナルディーノ教会 (Basilica di San Bernardino)は、壮麗なファサードと、内部に安置された聖ベルナルディーノの棺が訪れる者を圧倒します。また、サンタ・マリア・ディ・コレッッァーノ教会 (Chiesa di Santa Maria di Collemaggio)は、その白亜の美しい外観と、教皇セラフィノ5世によって制定された「聖なる門」が有名です。この門は、毎年8月29日に開かれ、特別な恩赦が与えられることで知られています。地震からの復興過程で、多くの建造物が修復・再建されており、その努力の跡を感じることができます。
フォルテッツァ・デル・ラクイラ (Fortezza del L’Aquila)、通称「城」は、街を見下ろす高台に築かれた要塞です。現在は国立アブルッツォ博物館 (Museo Archeologico Nazionale d’Abruzzo)として利用されており、この地域の古代からの歴史を物語る貴重な展示品が数多く収蔵されています。城壁の上からは、ラクイラの街並みと周囲の山々のパノラマビューを楽しむことができ、写真撮影にも最適なスポットです。
自然:アペニン山脈の息吹
ラクイラは、アペニン山脈国立公園 (Parco Nazionale d’Abruzzo, Lazio e Molise)の玄関口としても機能しています。この広大な国立公園は、ヨーロッパでも有数の手つかずの自然が残る場所であり、野生動物の宝庫としても知られています。特に、アペニン山脈のオオカミや、アブルッツォのクマといった希少な動物が生息しており、運が良ければその姿を見ることができるかもしれません。公園内には、様々な難易度のハイキングコースが整備されており、初心者から経験者まで、それぞれのレベルに合わせて自然を満喫できます。
冬には、周辺のスキーリゾートが賑わいを見せます。ロカ・ディ・メッゾ (Rocca di Mezzo)やカンポ・インペラトーレ (Campo Imperatore)などは、雄大な景色を眺めながらスキーやスノーボードを楽しむことができる人気スポットです。特にカンポ・インペラトーレは、「イタリアの小さなチベット」とも呼ばれる広大な高原で、その壮大なスケールに圧倒されることでしょう。
グルメ:アブルッツォの豊かな食文化
ラクイラを含むアブルッツォ州は、豊かな自然が育んだ素朴ながらも滋味深い料理が特徴です。山岳地帯で育まれた食材と、地中海の影響を受けた食材が融合し、独自の食文化を築き上げています。
名物料理:羊肉とパスタ
アブルッツォ州といえば、羊肉料理が欠かせません。特に、アロスト・ディ・アニェッロ (Arrosto di agnello)、つまり子羊のローストは、シンプルながらも素材の旨味を最大限に引き出した絶品です。また、アバッキオ・アッラ・スコッティリア (Abbacchio alla scottadito)という、子羊のあばら肉を炭火で焼いた料理も人気があります。この料理は、熱々を指でつまんで食べることから「指が焼ける」という意味の名前が付いています。
パスタ料理では、マッケローニ・アッラ・キチーア (Maccheroni alla chitarra)が有名です。「ギター」と呼ばれる専用の道具を使って作られる四角い断面のパスタは、ソースとの絡みが抜群です。これを、ラグー (ragù)と呼ばれる肉の煮込みソースや、モッツァレッラ・ディ・ブーファラ (mozzarella di bufala)と合わせたものが人気です。また、ペポーゾ (peposo)という、黒胡椒をたっぷり使った牛ひき肉の煮込みも、アブルッツォの家庭料理として親しまれています。
チーズもアブルッツォの食卓には欠かせません。ペコリーノ (pecorino)、つまり羊乳チーズは、熟成度合いによって様々な味わいが楽しめます。また、スカモルツァ (scamorza)は、モッツァレッラに似た食感ながらも、燻製された独特の香りが特徴です。これらのチーズは、そのまま食べるだけでなく、料理にも幅広く使われています。
ワインとデザート
アブルッツォ州のワインといえば、モンテプルチャーノ・ダブルッツォ (Montepulciano d’Abruzzo)が世界的に有名です。しっかりとしたボディと果実味豊かな味わいは、肉料理との相性が抜群です。白ワインでは、トレッビアーノ・ダブルッツォ (Trebbiano d’Abruzzo)があり、軽やかでフルーティーな味わいが楽しめます。
デザートとしては、パルミジャーナ (parmigiana)のような甘いパイ菓子や、ロスコリエーリ (roscolieri)と呼ばれる、蜂蜜とナッツを使った素朴なビスケットなどが親しまれています。地元のバールやパティスリーで、これらの甘い誘惑をぜひ試してみてください。
周辺情報:日帰り旅行の選択肢
ラクイラを拠点として、周辺の魅力的な都市や自然スポットへの日帰り旅行もおすすめです。
歴史的な街並みを訪ねて
ロレート・アブルッツォ (Loreto Aprutino)は、美しい丘の上に広がる中世の街並みが魅力的な場所です。古い城壁や教会が残り、散策するだけでも楽しめます。また、サン・ステファノ・ディ・セッサンィオ (Santo Stefano di Sessanio)は、手つかずのまま保存された中世の村として知られ、まるでタイムスリップしたかのような感覚を味わえます。最近では、この村を舞台にした映画も撮影されました。
国立公園でのアクティビティ
前述したアペニン山脈国立公園はもちろん、グランチーニョ国立公園 (Parco Nazionale del Gran Sasso e Monti della Laga)も、ラクイラからアクセスしやすい場所にあります。この公園は、イタリア本土最高峰のコルノ・グランデ (Corno Grande)を擁し、壮大な山岳景観が広がっています。高山植物や、希少な鳥類などを観察することもでき、自然愛好家にはたまらない場所です。
まとめ:ラクイラ、再発見の旅へ
ラクイラは、地震という困難を乗り越え、力強く復興を遂げた都市です。その歴史的建造物は、静寂の中に過去の物語を秘め、アペニン山脈の雄大な自然は、訪れる人々に癒しと感動を与えてくれます。また、アブルッツォの豊かな食文化は、素朴ながらも奥深い味わいで、食通をも唸らせることでしょう。
観光客で賑わう有名都市とは一味違う、イタリアの「本物」の魅力に触れたい方にとって、ラクイラはまさに理想的なデスティネーションです。まだあまり知られていないこの隠れた宝石を、ぜひあなたの次の旅行先に加えてみてはいかがでしょうか。

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